リルケと海と風
詩集をもって、実家にほど近い海へ。
歩道橋を渡りはじめると、ああ、もう潮の香りがする。
懐かしくて心が落ち着く。
風が少し冷たくて、頬をぴんっとつつく。
レースのような波の先は、一瞬ごとに変化する。
今日はサーファーも少ないね。
100メートルほどの岩場をゆっくり進んで
テトラポットの先頭まで辿り着いた。
海が、きらきらしている。
城山三郎が「黄金の海」と言いたくなったのもわかる。
とても、きらきらしている。
今日は、ここで、リルケを読みたかった。
本はもって来たけど、もう憶えている一節があった。
「在れよ、—ーーそして同時に非在の条件を知れ、
君の心の切々たる振動の限りない根拠を知れ、
この一度しかない存在に、あますなく振動をとげんがため。」
(リルケ)
海を渡る風が、移ろいゆくものへの哀歌のように、
波の音は、変わらず在り続けるものへの讃歌のように、
聴こえてきた。
江ノ島がぼうっと見える。
遠くも近くもなく、ちょうどそのくらいの所にある、という風に見える。


